貴族と海賊の出会い

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「まんまと宝を盗まれた僕らは責任を問われるわけだ。おかしいね、僕はクイーンから直々に海の暴れん坊たちをどうにかしろって命令を受けたんだけど。これじゃまるで僕が陥れられてるみたいだ」  みたい、ではなく。自分たちは何者かにはめられたということだ。海賊の下っ端たちもそれに利用されたのだろう。  女王直々の命令を知っている者はわずかだ。探ればすぐにわかるだろうが、そんなわかりやすい立ち位置にいる者が果たしてそんな罠を張るかどうか。 「心当たりあるのか」 「愚問だなシャイル、むしろ心当たりしかないよ。どうでもいいんじゃないの相手なんて」  マルセルは笑う。シャイルの嫌いな、あの笑顔で。 「相手が誰だって皆殺しにすることには変わらないんだから」  悪魔のような恐ろしい笑顔で。 「どうした、珍しく剣に勢いがなかったじゃねえか」  船長であり、自分を拾ってくれた恩人。そして剣の師匠である船長のドラグにケラケラと笑われるが。少年、ハーヴェストの表情は険しい。 「ちょっとイラついただけ」 「あのガキか。そこそこ強かったなぁ」 「強かったからじゃなくて。あいつの目が」 気に入らない。 「生きているくせに、死んでるみたいなあの表情が」 気に入らない。 「いろんなものを持ってるくせに、何も持ってないみたいなあの雰囲気が」  ガン! と、船の手すりを蹴りつける。普段物に八つ当たりをしないというのに本当に珍しい。 「久しぶりに心の底から。吐き気がするほどイライラした」 「お前がそんなにブチ切れるの珍しいな。初めて会った時以来か」  奴隷として生まれ育ち海に捨てられてしまった少年。漂流しているところを拾ったのだが、拾った時彼は遭難して怖くて怯えているわけでも絶望していたわけでもなく、叫びながら怒っていた。それが面白くて船に乗せたのだが。  人としての尊厳を持つことを許されず、死にかけていたこともあってハーヴェストは生きることに貪欲だ。だが根は素直でいたって普通の少年でもある。それほど怒りっぽい性格でもない。  それが、ほんの一瞬剣を交えただけで相手を気に入らないというのは初めてだ。人を見かけで判断しないし、こいつはこういう奴だと決めつけない考え方をしていたというのに。 (もしかしたら根っこの部分がそっくりなのかもな。同族嫌悪ってやつか)  口に出したらさすがに暴れそうなので言わないが。 「まあいい、どうせまた会う。裏の仕事を任される悪の貴族ってところだ。俺たちを殲滅するまでは終わらないだろうさ」 「そっか」 「ま、近いうちにまた会うでしょ。面白い遊びを考えたやつをどうにかするのは当然だけど。本来の目的である彼らの駆除もちゃんとやらないとね」 「あっそ」  また、会う。その時は。 「絶対殺す」 「殺してやる」  多分自分と似たような境遇でありながら、自分とは正反対の生き方をしているあいつが。イラついて仕方がないから。
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