出し忘れ

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出し忘れ

 ハンカチをポケットに入れていた頃。  そう、小学校の頃でしょうか。  大人になってもありますけれど、特に、お気に入りのハンカチがなくなるのはとても悲しい出来事でした。  私が小学校の頃は、今の様にウエスト部分ににクリップで挟むような小物入れは無かったので、ポケットのついている衣類が多かったと思います。  そして、我が家は衣料品を扱っていて、ハンカチも売っていましたので、年に一度くらいは新しいハンカチをお店からおろして、使ってよいことになっていました。  私は正直、勉強はできましたけれど、だらしのない子供でした。  でも、持ち物検査があるので、ハンカチとティッシュはいつもポケットに入れていました。  ティッシュは何度か洗濯機で一緒に回した後、気が短い母はもう、注意をするのも面倒だったようで、自分で出して洗濯をしてくれましたが、ハンカチはなぜか出してくれなかったのです。  私のスカートやズボンのポケットにはいつも使ったまま入ったハンカチがそのまま洗濯され、そのまま乾いて、またそのまま身に着けて学校に運ばれるという繰り返しでした。  私のハンカチはいつもズボンやスカートと同じしわがついていました。    でも、それだったら、お気に入りのハンカチもどこかの順番で出てくるはずなのですが。  お気に入りのハンカチはいつまでたってもその順番に入ってこなくて、どこに行ったのかさっぱりわかりませんでした。  なぜなら、お気に入りのハンカチはよそ行のお洋服のポケットに入りっぱなしだったからです。  子供服も扱っていた我が家では、お出かけの時には結構可愛い洋服を着せてもらう事が出来ました。そして、お気に入りのハンカチは子供心にもお出かけの時に使っていたのですね。  お出かけ用の服って、小学生の頃は一度着るとそのまま洗われたまま、サイズが合わなくなったりします。  その服を処分するときに母がポケットを確認して、お気に入りのハンカチが出てくるのです。  ハンカチも頻繁に洗濯されている方が綺麗でして、いくらお気に入りでも、ポケットに入りっぱなしで1年以上出されていないと何故か色あせて見えたりしました。  大人になると、ハンカチは大抵バッグに入れて、持ち運ぶようになるのですが、それでも、バッグのポケット部分に入れるので、帰宅した後、出し忘れて、私のバッグにはいつもお気に入りのハンカチが入っていました。  さすがに汗をかいて拭いたものは帰宅したときに洗いますが、おトイレにも手の乾燥機がついているこの時代、ハンカチは使わないまま、バッグのポケットに入っていたりします。  でも、つい入っている事を忘れ、ポケットの奥に隠れていたりすると見えないので、次のハンカチを入れていました。 そうすると、私のバッグのポケットにはだんだんとお気に入りのハンカチが増えて行き、ある時、バッグのポケットがパンパンになっているのに気づきました。  出してみると。  出てくる出てくる。  森英恵の蝶々柄の色違いが何枚も。  社会人になったばかりのころ、大好きだったのです。  狭いバッグのポケットに押し込められていたハンカチたちは皆くしゃくしゃになっていました。  まとめて全部出して洗った時、  見当たらなくなると、実家の仕入れに行くたびに森英恵のハンカチを買ってもらったものでした。  私にとってのポケットはいつも混沌(カオス)でした。 【了】      
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