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5
深い谷を渡る鉄橋。
短いトンネルを何度もくぐる。
その度に2人の心は、出逢いに高鳴っていく。
自然の中にいれば、それだけで心に暖かい光が差し込む。
深い部分にあった、冷たい液体に熱をもたらし、至福という形を帯びていく。
いつまでも、こうしていたい。
2人は心から、そう思った。
ガタン、ゴトン。
レールの継ぎ目を車輪が渡る。
心地よさについ、目的を忘れてしまいそうになった。
「そうだ、深樹園駅って」
「次だよ」
もうすぐ列車を降りる。
美しい風景と、優しい列車の音が、名残り惜しい友人のようだ。
「電車に乗って、降りるのが惜しいって、初めて思うかも」
牧野は感慨深そうに目を細めた。
こんな旅があるなら、人生も悪くない。
深樹園駅で降りた2人は、改札を出ると外を見回した。
誰かと待ち合わせしているはずだが ───
スマホを取り出し、じやうなろのメッセージを確かめたが、何も返っていない。
呆然と立っていた2人は、初めて口にした。
「じやうなろが、会いたいって言ったから来たのだけど ───」
お互いに顔を見合わせると、困ったような顔がおかしくなった。
腹を抱えて、肩をゆすって笑った。
どうしようもなく楽しくて、嬉しくて、誕生日のプレゼントも、クリスマスケーキも、もういらないなどと思った。
「じやうなろ、どこにいるの」
呼んでみたが、答えがなくて可笑しかった。
また笑い、目から涙が滲み出た。
「ねえ、騙されたんじゃない、私たち」
「ああ、騙されたねえ」
笑いが止まらなかった。
ちょっとしたハイキングコースがあるようなので、少しだけ歩いてみることにした。
ハイキングなんて、学校の遠足くらいしか記憶がない。
「そういえば、僕は、いつも家で閉じこもってパソコンいじってたよ」
「あはは、そうなんだ。
だから、じやうなろが声かけたのかもね」
はたと、牧野は足を止めた。
「そうだ、私って、いつも勉強ばかりを ───」
「声かけにくい人だなって、思ってたよ」
「やっぱり」
また笑いが込み上げる。
地面が柔らかい。
土と草と、太陽の香り。
ガサガサと、木々がざわめく。
蜂が飛び、虫が鳴く。
何より、暖かい陽射しが心を溶かすのだった。
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