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10年後 ───
JAXAは13年振りに宇宙飛行士選抜試験を実施した。
4000人を超える受検者から、書類選抜、0次試験、1次試験、2次試験で絞られていった。
難関を突破した10名の中には ───
「牧野、久しぶりだね」
ポンと肩を叩かれた彼女は、驚きに目を見開いた。
「桑山君」
大学を出て海上保安庁に勤めていた彼は、宇宙への夢を胸に抱き努力を続けてきた。
高校時代、少々頼りなかった少年が、明晰な頭脳と強靭な肉体を備えた青年に成長していたのだった。
「見違えたよ。
何だか、立派になったね。
正義のヒーローみたいだよ」
「何言ってんだい。
まあ、死ぬほど勉強したし、世界中を飛び回って深海を探査したりしたよ。
それより、牧野も最終選考まで残ったなんて、驚いたぞ」
大学卒業後、国の研究機関でロボット工学の最先端で研究をしていた牧野は、聡明で美しい女性に成長していた。
そして、さらに5年が過ぎた ───
桑山は、自ら開発に関わったスペースシップに乗り込んだ。
ロケットには巨大な燃料タンクがあるため事故のリスクが高かった。
宇宙ビジネスは日進月歩である。
民間企業が続々と参入し、新技術の開発競争が激化する。
民間人も、数百人単位で宇宙旅行できる時代が来た。
「ご搭乗のみなさま、機長の桑山です。
本機は高度一万メートルの水平飛行から、少しずつ高度を上げて熱圏の最上部まで参ります。
運航には万全を期しておりますが、気流の乱れやデブリの影響で揺れる場合がございます。
シートベルトサインが点灯した際は、装着をお願いいたします。
なお、宇宙食のサービスもご用意いたしました。
それでは、宇宙旅行をお楽しみください」
コックピットの先に、抜けるような青空が広がる。
ジャンボジェットのような機体は、滑走路へと進んで行った。
「副操縦士の牧野です。
現在の気温は18℃、高度一万メートルではマイナス36℃、熱圏に入りますと高度90キロメートルでマイナス80℃まで下がります。
そして高度600キロメートルでは2000℃に達します。
お手元のモニタに、リアルタイムで表示していきますので、そちらもお楽しみください」
機内でくつろいでいた人たちから、どよめきが起こった。
離陸サインが点灯し、ロケットエンジンに火が入った。
「桑山さんと、牧野さんって、5年前の選抜試験で選ばれた日本人なんだってさ」
「2人とも、カッコイイよね」
緩やかに離陸した機体は、雲を突き抜けていった。
空の上には、まばゆい光が満たされている。
「前方に輝いていますのは女宿でございます。
北方玄武七宿のうち第三宿に当たり、古来より中国では玄武の蛇身と言われています ───」
宇宙旅行の観光案内も、宇宙飛行士の仕事である。
そして、本格的に宇宙ステーションの運用が始まり、長期滞在が可能になっていく。
その要に、懐かしい名があった。
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