パコ

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 パコは毎晩のように僕と同じものを食べて育ち、すくすくと大きくなっていった。  友達の多くを見ていると、ペットの世話に夢中になるのは最初だけらしいけど、僕はそんなことはなかった。むしろ日に日にパコへの愛情は増していき、夕飯のおかずをこっそり持ち出せなかったときなんかは、僕がおやつに一日一粒ずつ食べて大切にしているキャラメルを三粒も食べさせてやるほどだった。  そんなある土曜日、昼前に目を覚ますと、一緒に布団に入っているはずのパコがいなかった。とうとう家中を探しても見つかることはなく、僕はママに尋ねた。 「ねぇ、この前のダンボール箱知らない?」 「ああ、あれなら今朝ゴミに出しちゃったわよ。工作なら、もっと綺麗な箱がウチにあるもの」 「もう! 何してるんだよ!」  僕はパジャマのまま、急いで家を飛び出した。  ゴミ出し場に着いてみると、すでにパコの姿はなくなっていた。顔を上げると、遠くで青いゴミ収集車が走っているのが見える。  大丈夫、パコはまだあの中にいる──。  僕はゴミ収集車を必死に追いかけた。ようやく追いついたとき、そこはゴミ処理場の一角だった。  車から二人のおじさんが降りてきて、荷台にギュウギュウに詰まった紙やダンボール箱を順に下ろして運んでいく。と、その中に一つ、小さく折り畳まれて紐で縛られながらも懸命にもがくダンボール箱──パコの姿が見えた。  おじさんの一人がパコに手をかけたそのとき、僕は飛び出していって大声で叫んだ。 「その箱を僕にください!」  驚いた表情でこちらを振り返ったおじさんは、すぐに笑顔になって答えてくれた。 「ああ、これかい。ダンボールが欲しいなら、こっちにもう少し綺麗なのがあるけど」 「いえ、その子がいいんです!」 「あ、ああ……」  僕はおじさんからパコを奪うようにして受け取ると、小さくお辞儀をしてから逃げるように家に帰った。  それからは二度とゴミに出されないよう、ママが部屋に入ってきたら、素早く身を折りたたんで物の間や押し入れの中に隠れるようにパコをしつけた。  さらに、新たな芸も身につけさせた。  それは、パコが他の箱に化ける──つまりは擬態するというものだった。  たとえばキャラメルの箱やお弁当箱、パパの煙草の箱、ときには箱型テレビにまで。パコは、実際に家の中にある箱にならどんな箱にでも化けることができるようになった。
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