パコ

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 流れはこうだ。一度身を折り畳んでから、ふたたび組み立て直すときに色や形、大きさを調整しながら箱になる。始めはぎこちなくても、何度も失敗を繰り返すうちに上手くなっていく。ゆくゆくはマジックで書かれた『拾ってください。』の文字が側面に残る以外、本物とほとんど変わらない見た目になるのだ。  そして、いつしかそれは僕らの遊びにも発展した。  僕が学校から帰ってくると、パコが何かしらの箱に化けて隠れているのだ。僕は鬼となって家中を探し回る。 「みーっけ!」  やがてパコらしき箱を見つけると、僕はそれをそっと開ける。  すると、中からきまって、ママがダイエットで始めたキックボクシングの赤いグローブが僕の顔に向かって飛び出してくるのだ。 「うわあ!」  分かっていても、毎回声を上げてしまう。そんな僕を見て、パコは口を開けたり閉じたりしながらケタケタと笑う。  そうして、パコはある意味ではびっくり箱にも化けて、まるで「おかえり」と言っているみたいに僕の帰りを楽しく迎えてくれるのだった。  そんな日々を過ごす中で、パコはいつだって僕のそばに寄り添ってくれた。  パパやママは知らないと思うけれど、僕はパコと一緒に大人へと成長しているのだ。  時が流れ、僕は大学生になった。  下宿先のアパートにも、引越しのダンボール箱に紛れ込ませてパコを連れていった。引越しをきっかけに物置部屋に運ばれるガラクタがたくさんある中で、パコのことはそこへ置いていく気になれなかった。  ところが、下宿先に連れていったはいいものの、そこはパコにとっては窮屈らしかった。約十年の時を経て大きくなったその身と、なにより実家と比べて化けられる箱の種類が大きく減ってしまったのだ。  僕はもう子どもの頃のように毎日キャラメルを食べないし、自炊もおろか、カップラーメンを啜ってばかりでお弁当箱なんて持っているはずもない。かといって、未成年で煙草を吸っているほどのワルでもない。時代の変化によって、箱型テレビは薄型テレビになってしまった。  パコがこの下宿先で化けられるのはせめてティッシュ箱やゴミ箱、それから定期的に実家から届く仕送りのダンボール箱くらいになった。  今でもかくれんぼをする仲とはいえ、僕がサークルの飲み会やバイトから夜遅くに帰ってきて始まるそれは、大抵すぐに見つけてしまってイマイチ盛り上がらなくなった。
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