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パコは日に日に小さくしぼんでいって、びっくり箱としての「おかえり」のパンチにも力がなくなっていった。
そんな様子を見かねた僕は、パコを街へ連れ出してやることにした。
思えば、家の外へ遊びに出してやるのは初めてのことだったから、パコはいつになく大はしゃぎで吠えながらあたりを駆け回っていた。
やがて、僕らは街の中でいつものようにかくれんぼを始めた。赤いポストに電話ボックス、ショーウィンドウに飾られた指輪の箱など、パコは街のあらゆる箱に化けた姿で見つかった。
「よおし、じゃあ次で最後だぞ」
それは、まだ遊び足りない様子のパコにそう声をかけて始まった、最後のかくれんぼでのことだった。いつもなら数分で見つかるはずのパコが、一時間以上探しても見つからなかった。
もしかして、事故や事件に巻き込まれてしまったのだろうか──。
無情にも傾いていくことをやめない夕日の光が、僕の焦りにじりじりと火をつける。
と、たまたま通りかかった路地の奥で、ある雑居ビルから出てきた配達員の抱えた箱が小さく震えているのが見えた。
パコだ。おそらく荷物に化けていたら、本物と勘違いされて運ばれてしまったのだろう。
「ちょ、ちょっと!」
慌てて叫びながら駆け寄っていく。
しかし、配達員は僕にまったく気づくことなく、パコを素早い手つきでトラックの荷台に投げ入れると、そのまま運転席に乗り込んでトラックを走らせた。
僕は道行く人々をかき分けながら、必死に追いかけた。小学生の頃、パコを乗せたゴミ収集車を追いかけたときの不安と恐怖が鮮明に蘇ってきて、背中にひやりと冷たいものが流れていく。
しかも、今回はとうとうトラックの姿を見失ってしまった。
ふたたび見つけられないまま日が暮れ、僕は肩を落としながら家路についた。
帰ってくると、つい部屋の中に隠れているパコのことを探してしまう。いつものように「おかえり」と驚かせてくれるような気がして、開けられる箱はなんでも開けてみた。今夜はこの部屋にいないと、分かっているはずなのに。
どうして外でかくれんぼなどしてしまったのだろう。そのせいで、パコはトラックの真っ暗な荷台に載せられて見知らぬ土地へと運ばれてしまった。もしかしたら、その後に飛行機や船で海外へと運ばれていることだってありえる。
そもそもパコのことを思いやっていれば、下宿先に連れてくること自体が間違いだったのかもしれない。僕は飼い主失格だ。
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