カタズアホの書

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 始め、この世界には何もなかったころ、原初の神、エンバイネは生まれた。エンバイネは誕生から間もなく、世界が生まれる前の虚無から雲をつくった。それは自由で、混沌そのものでもある。今日雲だったものが、時に水に、時に火に、あるいは石に、ある日は金に変わった。ものならざるものたちは、形なく揺れ、色もにおいも定まらなかったが、少しずつ世界に満ちていった。  悠久の時を経て、できては崩れるものたちを照らす光があらわれた。その名は大神ヴォルヴォアエ。言葉をもって万物を操り、光のごとく万象に秩序をもたらさんとする。  彼の光は数かぎりなく、清く正しく、世界の隅々まで溢れた。 「美しくあれ」大神の言葉に、原初のものは動きを止め、その響きに身をゆだねる。あたりにあった火や石は消え、すべては静寂でありながら海のように揺らめいていた。その色は、混ざりながらも美しい色。ヴォルヴォアエ神の十二色。ここに、すべてがある。すべてを含むこれこそ、完全なる神の水だ。
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