ラブレター

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ラブレター

早朝なだけあってバスに乗車している人は少なく、僕たちは一番後ろの席を陣取った。 「やっぱり、寝坊は失恋のダメージってやつか?」 少し、からかってやろうかと道司の脇腹を肘でつつく。 「うるせー。古キズいじんな。あと、失恋じゃねぇーし。」 道司には、好意を寄せていた一年先輩の女子がいた。高校に入ってすぐ一目惚れして以来ずっとだ。しかし、その思いを伝える事無く彼女は今年の春に高校を卒業してしまった。 本人は失恋じゃないと言ってはいるが、ここ数週間明らかに元気が無い。元々、明るい性格だけあって中身が別人にでもなった様だ。 これを失恋じゃないと言ったらホント何になるんだか。 「まぁ、恋には恋だろ!新しい相手見つけてやろうぜ!なぁ。美香も言ってやれって。」 道司の分まで、僕は無理やり陽気なキャラを演じる。 「・・・・。」 「おい、美香無視__」と思ったら彼女の耳からイヤホンコードがポケットの中に繋がっていた。 「今はマジで、そういう気分になれねぇんだわ。」 道司は至って真剣な反応だった。 これ以上キズ口を広げるのは止めておこう、別の話題を探す。 「あ、そういえば。来週から中間テストだよなぁー。道司、勉強してる?」 「今はマジで、そういう気分になれねぇんだわ。」 いや、勉強はしろよ・・・。 「それさっき聞いた。」 「ってか準。朝から嫌な事思い出させるなよ。」 「いやだって、俺たちもう高3だぜぇ。進路とかホントどうするかなぁ。」 いっそう暗い雰囲気に包まれる。 すると、はぁ。とため息ついて「お前らお通夜かよ」と美香から鋭利なツッコミが入る。 どうやら、ちゃんと聞こえていたらしく「テスト勉強くらい、ちゃんとやれ」と怒られてしまった。 それからバスに揺られる事20分、ようやく学校近くのバス停が見えてきた。 次は成瀬高校前〜。 バスは高校の正門近くに停車し、プシューーと音をたてて傾斜する。 ようやく三人が通う、県立成瀬高校に到着した。正門の脇には腕を組んだ生徒指導の教員が登校してくる生徒一人ひとりに挨拶をしている、見慣れた光景だがなかなか慣れない僕は、「うっす。」軽く会釈して正面玄関へと小走りで向かった。 大きい本棚の様に並べられた下駄箱の列。 さっそく自分の下駄箱の蓋を開け、かかとの潰れたうち履きを取り出し履き替える。 「うぉーーーー。」 あれ?なんかデジャヴ? 道司の雄叫びが聞こえた。 他の生徒からも一斉に注目を浴びる。 「おい、道司。朝から悪目立ちするのは止めてくれ。」 三列離れた道司の所まで小走りで向う。幸いにも注目を浴びたのは一瞬で、生徒は入れ替わりで登校してくる。生徒指導の教員には、声は届いていなかった様で安心した。 「で、どしたん?」 「み、見ろよ。準。これ、、、」 「お前の汚い下駄箱なんて見たく____マジかよ。」 道司は、震える手で下駄箱からあるモノを取り出した。 それは、薄いピンクの封筒で裏面にはハートのシールで栓がしてある、、、俗にいう、ラブレターだった。 「なぁ、準。これ、ラブレターだよな。」 ゴクリ、道司のツバを飲み込む音が、生々しく聞こえた。 僕は一言。 「おめでとう。」 道司は、ラブレターを片手に某アニメの戦闘民族が パワーアップする際のポーズをとり、 「うぉー____、」と二度目の雄叫びを上げようとしたので、すかさず僕は彼の口を手でとっさに覆った。 「ふごぉ、ふごっはふっ」 それでも道司は何か発していたが、これ以上注目を浴びたく無いのでなんとか興奮する友人を鎮める。 「ま、まぁ。いいからとりあえず靴履いて教室行くぞっ!(お前は、野生動物かっ!)」 「ふごっ。」 とりあえず了承してもらえたらしい。
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