ラブレター

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「何だよ、アイツ。」不満気に道司が言った。 「何だろうね。それより、道司。」 「何だよ?」 「ラブレターの中身ってこの一枚だけ?」 「え、ああ。そうだぜ。きっと、この子は俺への愛をこの一枚に全て注ぎ込んだんだよ。あぁ、なんて可愛らしいんだ。早くこの子に会って抱きしめてやりたいぜ。」 若干引いてしまう発言に少し距離をとる。 「ハハッ。抱きしめるって気が早くないか?ってか、朝まであんなに落ち込んでのに、ホント現金な奴だな。」 「そんな事無いさ!【俺のことを好きでいてくれている】、それだけで俺はきっとこの子を好きになれるさ。」 「なんだその謎理論。チャラ過ぎるだろ。」 「いや、だってよ準。そもそも告白ってそういうもんだろ?」 「え?」 「お互いに100%好き同士じゃなきゃカップルが成立しないなんて、そんなのムリゲーだろ。『自分を好きだ』って言ってくれるだけで、好きになる価値はあるだろ。」 むむ。ここまで自信満々に断言されると、そうなのかもと思ってしまう。たしかに、理解出来ない事は無いが恋愛がそこまで売り手市場だとは僕は思わない。 事が正直、僕にはまだ良く分からない。 良いのだろうか。自分を好きと言ってくれる人を好きになるのは、不誠実じゃないだろうか。 「じゃあ準は、俺が今は居ない先輩に告白してOKされたら、先輩を不誠実だと思うか?」 付け加える様に道司は言った。 「え、いや。」そう言われると言葉に詰まった。長い片想いが実を結んだ美談に感じる。そこに、不誠実さは正直感じられない。 「まぁ、上手く言えないけどそういうもんだよ。」 を理由に、人の好意を拒絶するのは、不誠実なのかもしれない。受け取らないと感じ取れないモノがあるのかもしれない。 僕もそうしていれば、何か分かったのかもしれない。 「まぁ、あとはアレだ。受け取る側が真剣かどうかってところだろ。ちなみに俺は真剣だ。すぐ付き合うぞ。」 「ハハ。でもさ、道司。」 「何だよ、準。まだ何かあんのかよ。」 「このラブレターさぁ。」 「ん?なんだよ。」 「どこにも、名前らしいモノが書いて無いんだけど。」 「え?」   ・・・・・。 「は?」 道司は、何度も読み返したであろう手紙をまた食い入るように読み込む。 「・・・ホンマや。」 なんで関西弁? 「やっぱり書いて無いよね。これじゃあ付き合うどころか、愛しのその子にも、、、。」 道司は手紙を逆さにしたり、太陽に透かしてみたりと慌ただしく動いている。 「あっ!炙れば文字が____。」 「コラ。大事なラブレターを燃やす気か。」と冷静さをかいた道司に軽くツッコミをいれる。 この時代に、炙り文字で恋文なんてあるわけ無いだろ。 すると、ガタッ。突然立ち上がった道司は、またも「うぉーーー。」と雄叫びを上げると「これじゃ、会えねぇーーじゃーーん。」と今度は、机に突っ伏してしまった。 ご乱心だ。 「ちょ、と、道司?大丈夫か?」 割と大きいリアクションをしたかと思うと、今度は沈黙してしまう。 しかし、数秒後に道司はムクッと顔を上げると「・・・たしかに。たしかに。名前は無い。だが!この手紙は俺に届いている!この学校には俺を好いてる子が最低一人は居るのは事実な訳だ!なら、俺は残り一年を掛けてその子を必ず見つけてみせるっ!」とギラギラとした目をした男がそこには居た。 「俺は見つけるぞ。愛しのこの子を!絶対に会ってみせる!」 おぉ、さすが道司だ。完全に持ち直している。 「そ、そうだ道司!その意気だ!お前を見てくれている子は必ず居るんだ!もう落ち込むのは止めて前向き行こうぜ。」 僕は道司の背中をパシッと軽く叩いた。 「準、、。俺は、先の失恋はもう忘れる!」  (やっぱり失恋だったんだ・・・) 「お、おうっ。その意気だ道司!部活も大事な時期だしな、お前には頑張らなきゃいけない事がたくさんあるんだよっ。その子探しは、、、まぁ、、焦らずいこうな、、。」 道司は、また「うぉーーー。」と雄叫びを上げ奮起する。 その子に会いたいと願う気持ちが、立ち直るキッカケになってくれたようだ。 それにしても、コイツは良く叫ぶヤツなんだな。 親友の新しい一面を知る事になった。
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