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いつもの朝
五月、新学期を迎えた高校最後の一年。
見慣れて、もう確認する事も無くなったバスの時刻表を背にスマホをいじる。
今朝、10分寝坊してしまったハズが逆にいつもより5分早くバス停に着いてしまった。
急いで支度を済ませて来たものの、必要以上な成果をあげてしまい若干の手持ちぶさたと、むしろあと5分寝ていられた事に無性に勿体ない気持ちになる。
スマホに反射した陽光が眩しく目を細めている。
「準おはよー、朝からそんなにスマホを睨みつけたら可哀想でしょ。」
気づけば数歩先から、同じ紋章の付いたブレザー。但しズボンタイプの自分とは違い、膝上程度までに調節したスカートの女子がこちらを覗き込む様に近づいてきていた。
「お、美香か。おはよう、道司はまだか?」
「アタシが、知るわけ無いでしょ。」
たしかに・・。
「どうせ、寝坊でもしたんでしょ。」
美香は両手を肩まで上げると呆れ顔で言った。
「いや。寝坊は必ずしも遅刻するとは限らないぞ。むしろ早く着くとも言う。」
僕は実体験に基づいた謎理論を提言する。
「誰が言うのよ。まったく、、。」美香は、更に呆れた顔をした。
そんなやり取りをしていたら、遠目に信号機で停車しているバスが視界に入った。
「やばっ、バス来たじゃんっ。」
「えっ、ホントだ。道司のヤツ何してんだよ。」
僕たちの乗るバスは、学校近くに停車はするが本数が少なく1時間に一本程度しか走っていない。
つまり、この便を逃すと必然的に遅刻がほぼ確定してしまうのだ。
「アイツ、かなり落ち込んでたからなぁ。むしろ休みかもな____。」
「あっ!」
耳元で美香の声が響く。
「準、あれ見て!」
美香は信号待ちを終え加速仕始めるバスの方を指差すと、まるでバスと併走するようにこちらに走ってくる男子高生が一人。
「道司だ。」
「道司じゃん。」
美香とお互い笑みを交わし、100m程離れた男子高生へ向い大きく手を降った。
「とーじ、走れーー!」
「ダッシュ!ダッシュ!」
遠くから「うぉーーーー。」と雄叫びを上げる声が響く。
背に担いでいる野球道具が入ったエナメルバックが、バッサ、バッサと揺れ徐々に、輪郭がハッキリしてくる。
「道司、もうちょい!」
「ほらー、早くっ。」
最後は、僕と美香でお互いに腕を伸ばして繋げ、駅伝ランナーさながらに道司がゴールテープを切った。
「「はいっ、セーーフ、おつかれ」」
ゼェ、ハァ。と肩で息をする道司とそれぞれ軽くハイタッチをする。
「悪い、遅れた。」
別に僕たちは待ち合わせをしている訳では無い。
でも、学校から離れた地区に住んでいて、尚且つ幼馴染の僕たち三人は自然とこの2年間、同じバス停で同じ時刻のバスに乗って登校している。
それがいつものルーティンになっているのもまた事実なんだ。
「別に、待って無いけど。」美香が冷たくあしらう。
「ハァ。ハァ。おいおい、美香。俺たち親友だろぉ。」呼吸をみだしながら言った。
そんな道司の反応に「腐れ縁だけどね。」美香が鼻で笑ったので、僕も負けじと「まぁ、腐れかけが一番美味いって言うけどなー」と、したり顔で言う。
自然と三人笑顔になった。
なんだかんだ、いつもの調子。いつもの朝。
プシューーー。
少し遅れて到着したバスに僕たちは乗り込んだ。
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