変なチラシと美女

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変なチラシと美女

「何だこの募集?」  俺はアパートのポストに投函されていた、変なチラシに興味を引かれた。 『年齢性別学歴不問、平日の五日間で夕方から三時間程、仕事内容はピッキングに近しいもの、交通費全額支給、給与+出来高賞与、他言無用』  老朽化で錆びも酷い鉄階段を上り、自分の部屋の鍵をポケットから取り出して、施錠が外れたのを確認してから扉を開けるも、建て付けが悪くなってきたせいで、力を込めながらでないと入れない。 「家賃が安いし、通学とバイト先にも近いから住み続けていたんだが、そろそろ引っ越し時かもな」  大学に学費を稼ぎながら通う必要があり、数年前からこのボロアパートに独り暮らしをして、実家の仕送りは食費が賄える程度。  自由な時間にお金は使えず、先輩の驕り以外で外食などもっての他。  日々質素な暮らしをしていた俺は、チラシの募集要項に不自然さを感じつつも、一番肝心な給与に目を見張った。 「最低金額保証な上で更に出来高賞与有りって、単なるパートタイムの拘束時間だと有り得ない待遇の良さじゃんかよ」  深夜のコンビニバイトで食い繋いでいた俺からすれば、多少実入りが少なくなるかもしれないが、出来高賞与の額によっては時間効率が半端ない。  単位を取るために朝の早い日を除いて、週三で働いていた俺にとって、睡眠時間が増えるのは体調的にも嬉しい。  早速、チラシの連絡先に電話を入れて面接の日取りを決めた。 「この住所で合っているよな?」  面接の日にスマホの地図を見ながら、チラシに掲載されていた住所の前まで来ていた。  廃棄と見間違えても可笑しくない佇まいの三階建てのビル。    裏路地なのもあってか、周りが薄暗いし人通りなんて全くない。  ピッキングに近い仕事内容なので、もしかしたら事務所とは別で現地に赴くタイプなのかと思い直して、内階段を上り最上階に足を運ぶ。 「聞いたことない名前だよな」  入り口には『ダンジョン斡旋事務所』と、今にも剥がれ落ちそうな薄紙に単なる太いマジックで書かれた、会社の名前を確認してから扉を開けた。 「すみません。本日面接の予約をした者ですが…」 「お待ちしておりました。こちらの席に座ってください」  お出迎えした人は、ミニスカのスーツ姿で褐色の肌と銀髪の長髪を三つ編みにして、眼鏡をかけた物凄く美人の女性だった。  気のせいか耳が少し尖っている様な、それよりも爆が付く胸部装甲に目が行ってしまう。  書棚も無い、片隅に小さいテーブルと対面ソファーだけの閑散とした室内に、極上の美女独りだけ。  ハンドカメラを持たせられて、これから男優として私のAV撮影をお願いしますと言われても、『はい』の返答しか返さない自信があるね。  俺が勧められたソファーに座ると、彼女が対面のソファーに座り、慌てて出した履歴書を小さなテーブルの上に俺が置くと、彼女は受け取って目を通す。  ミニスカートから覗く組まれたストッキングの美脚が艶かしい。 「此方の希望は週の平日五日間で、時間帯は夕方から深夜前までの三時間。お仕事と待遇に関してはチラシに書かれている内容となります」 「採用して頂けるのであれば、来週からでも直ぐに働けます」  シフトを決めるのは今週の内だし、予め辞めるかもしれないとは事前に連絡してある。 「それでは此方の契約書に目を通してご納得されてから、お名前を書いてください」  いつの間にか手にしていた用紙と羽ペンを小さなテーブルに置く彼女。  其処には、現地に関する秘匿と給与の受け渡しに関する内容が書かれていた。  電波が届かない場所で、そもそも携帯は持ち込み不可と書いて有るので休憩無しだろうと、移動時間込みの短時間仕事だし納得がいく。  俺は羽ペンでサインして承諾する。 「それでは来週から宜しくお願いします」  笑顔になる彼女だが、俺は何故か悪寒が走る。  
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