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一.  誰にも、欲しくてたまらんものはある。どない裕福な家の出でもそうや、どこかの誰かが言っとった。 「・・・」 うちは優しい横顔をじっと見つめてみる。気が付いたようにこちらを振り向いて恥ずかしいと頬を赤らめるのがなんとも可愛らしい。 「なんやの。」 やめてと、顔を包み隠してしまう。 「なんやのかわええこと。」 「やめとくれって。」 ふふっと、袖で顔を隠して、とてとてとどこかに行ってしまった背を、うちは見つめた。幼い頃から見つめている背中。うちの大切な背中。 ──大事やなあ ぎゅと己の袖をその背に見立てて抱きしめてみた。 ──ずっと共にいたい、そう伝えられたらどんなに幸せやろか。  一人の部屋で膝を抱えた。一人はなんや寂しい、不意に思った。いつもは愛おしいのがそばにいる、見つめて、見つめられてを繰り返して。優しい笑顔を見てどこか胸がホッとする。 「いてはる?」 襖が開いて期待を膨らませて見た。愛おしいのが顔を覗かせた。うちは、彼女に小町紅を差し出した。 「これ・・・」 「この間ね、街に買いに。」 「ええの?」 「遠慮せんで。」 「おおきに・・・!」  花が咲くみたいに彼女が笑った。 ──こないかわええ顔するんやなあ 感慨深なってしもた。 ──ああ、欲がでた
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