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まったくいい気なもんだわ。人の気も知らないで…
わたしはそう思いながらも笑顔でじっと座っていた。
わたしが大きなため息をつくと雄一郎が話しかけてきた。
「陽奈子さんはどんな指輪が好みかな?」雄一郎は満面の笑みで振り袖姿の陽奈子を見る。
「いえ、そんなの考えたこともなかったから…でもわたしまだ結婚なんて…」
「ああ、いきなりでごめんよ。でも婚約だけは‥いいだろう?君にはエメラルドなんかどうかって思うんだ」
「はぁ…」あいまいな返事しかできない。わたしのどうしろって言うつもり?こんなのまるで騙されたって感じで…
こんな時もわたしの長年培ってきた悪い性格は裏目に出た。
はっきり言わない。その場を取り繕う。流れに任す。どれも熊谷の家で暮らしていくうちに学んだことだった。
「わたしちょっとお手洗いに…」
わたしは慣れない着物と結婚の話で気分が悪くなった。
ゆっくりお手洗いを済ませて、何度も鏡の前でイーって顔をゆがめてみる。
何度こんなことをしたからといって、今さら手遅れだ。
もう、どうなっても知らない。
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