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 もちろん姉のかえでは、会社の役職に名前はあったが、仕事などしてはいなかった。たまにすることといえば、会社の創立記念パーティーに出席するとか、取引先の会社のパーティーに参加するくらいだった。  ある日、わたしは会社が大変なことに気づく。取引先に不渡りを出したのだ。  「お父さん、これご存知なんですよね?」わたしはすぐに父に話をしに社長室に行った。   「ああ、わかっている」  「それで、銀行から融資で受けるつもりなんですか?」  「銀行からはもう断られた」  「えっ?じゃあどうするんです?」  熊谷金属は従業員50人ほどの中小企業ながら、特許を持っていて、この不況のなかも何とか生き残っていたが…  「ああ、それなんだが…陽奈子…お前見合いしてみないか?」  「わたしが?でもかえでお姉さんの方が先じゃ?」  「いや、まあそうなんだが…どうしても先方がお前がいいと言ってるんだ。ほら、お前も知ってるだろう?四つ葉ローンの田所さん」  「ええ、四つ葉ローンの田所さんなら…それがお見合いとどうして関係あるんです?」
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