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 今日はなぜかわたしの結婚式だ。  わたしは悶々とした気持ちで、街の中心部にある結婚式場である<ホテルグレイテス天宮>に向かう道を歩いていた。  父は式場まで一緒に行こうと言ったが、こんな日にわたしはやるせない気持ちを気づかれたくなくてひとりで行きたいからと早めに自宅を出た。  父は、出がけに言った。  「陽奈子お前のおかげで会社は四つ葉ローンから融資を受けて不渡りの穴埋めが出来る。これで何とか熊谷金属は持ち直すだろう」と大喜びで話した。  それがどうしたって言うの?  だからって…どうしてわたしが…あんな人と結婚しなければいけないのよ。お見合いだけで断ればいいって言ったくせに、いつもわたしはあなたたちにいいように使われて…  おまけに結婚式の後はハネムーンでヨーロッパ旅行だなんて…わたしだってヨーロッパには行ってみたいと思っていた。でもあんな人とハネムーンで行くくらいなら、近くのスーパーに行くのでだってお断り!  タクシーを拾おうとしたが、なかなか捕まえられなかった。  もう、こんな日までわたし…  かえでお姉さんの笑い声が聞こえるみたい。
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