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なんで? の意味を、あなたは慎重に考えた。考えれば考えるほど、何も言葉にできなくなった。
沈黙を破ったのはウミちゃんだった。
「ねえ、本当は気づいてるんでしょ? 自分の気持ちにも、原口さんの気持ちにも」
あなたは反射的に首を振る。振りながら、自分が何を否定しているのかがわからなくなる。誰に対しても公平だったはずの原口さんの態度が、わずかに傾く瞬間があることに、あなたはもう気づいていた。
「私に遠慮してるんでしょ? そんなことされて、嬉しいと思う?」
「ごめん。傷つけたくなかったの」
アーモンド型の瞳の縁が、溢れ出した感情でみるみる濡れる。
「あなたが傷つけたくないのは、あなた自身でしょ?」
図星を突かれたあなたは、身を焼かれそうな羞恥に襲われる。こぼれ落ちそうな瞳で、ウミちゃんは真っ直ぐにあなたを見据えた。
「傷つかない方法じゃなくて、幸せになる方法を考えなよ」
あなたの手からビニール袋をひったくって、ウミちゃんはくるりと踵を返した。不器用な優しさを背負った華奢な背中が遠ざかるのを、あなたは呆然と見つめていた。
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