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いつだって、優しすぎるあなただった。
ずっと昔、あなたとわたしは同じ病棟に入院していた。わたしたちは不思議なくらい気が合って、あっという間に仲良くなった。辛く孤独な入院生活の中で、あなたの存在は何よりもの慰めだった。
けれどあなたの退院が決まった途端、わたしは、あなたと目を合わせられなくなった。
どうして? と、あなたが声を震わせるたび、わたしはますます顔を背けた。
あなたが別室で退院前の検査を受けている最中、あなたのベッド上にぽつんと残されたイルカのぬいぐるみを見つけた。あなたの宝物であるそれを、わたしは咄嗟に盗んでしまった。
突然の神隠しにあなたは狼狽え、声をあげて泣き出した。大人たちの懸命の捜索により、それがわたしのベッドの中から発見されると、あなたは一層激しく泣きじゃくった。
ようやく事の重大さに気づき、わたしは謝罪の言葉を重ねたけれど、あなたは顔を背け、そのまま病院を後にした。
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