優しいあなた

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 高学年になって、ウミちゃんは腰まで届きそうだった後ろ髪と、表情の大部分を覆っていた重たい前髪をバッサリ切り落とした。肩上と眉ぎりぎりで潔く揃ったボブヘアは、驚くほどウミちゃんに似合った。あなたを始め、あちらこちらの口から称賛の言葉が溢れた。 「ウミちゃんって、KEIちゃんに似てない?」  クラスの中心人物であるマナちゃんが発した言葉に、教室中がハッと目を見開いた。   KEIちゃんは、人気アイドルグループのセンターを飾る中心メンバーだ。髪型の一致を差し引いたとしても、よくよく見ればその大きなアーモンド型の瞳や、すっと通った鼻筋、程よく肉厚な形の良い唇は確かにKEIちゃんそっくりで、噂を聞きつけた上級生が教室を覗きにくるほどだった。  降り注ぐ称賛は、確固たる自信となってウミちゃんの表情を輝かせた。以降のウミちゃんは、内に秘めていた社交性をみるみる開花させていった。  第二次性徴期に突入し、すらりと伸びた四肢としなやかな曲線を得たウミちゃんは一層の輝きを纏って、教室内に形成されたスクールカーストという奇妙な階級を軽やかに登り詰めていった。マナちゃんと並んで、ピラミッドの頂点に君臨したウミちゃんを、目を細めてあなたは見上げた。
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