優しいあなた

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 中学生になって、あなたはあいかわらず優しいあなただった。教室の隅で背を丸め、一人きりで弁当をつつくウミちゃんの視界にそろりと入り込み、微笑みを差し出したのはあなただった。  あなたは知っていた。中学に入って、マナちゃんが恋に落ちた相手が、ウミちゃんに恋に落ちてしまったこと。あなたを苦しめたのと同じ種類の暴力に今、ウミちゃんがさらされていること。妬み嫉みは飼い慣らすのが難しく、時に簡単に人間関係を覆してしまうこと。  ウミちゃんは少し困ったように笑ったあと俯いて、これまでのあなたへの態度について、謝罪の言葉と涙をこぼした。天日に晒した寝具のように、あなたは暖かく受け止めた。 「私はただ、みんなと仲良くしたかっただけなのに」  涙で濡れた長いまつ毛を震わせて、上目使いであなたを見つめるウミちゃんは精巧なガラス細工のようだった。  あなたとウミちゃんはまた、以前のように言葉を交わすようになった。
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