優しいあなた

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 原口さんは優しかった。その態度は潔いほど一貫していて、誰に対しても公平だった。  飲み会の後日、同じ顔ぶれでバーベキューに出かけた帰りに、彼に恋をしているのだとウミちゃんから打ち明けられた時、あなたにはウミちゃんの気持ちがよくわかった。痛いほどわかって、胸の内で同様の気持ちを温めていることを、あなたはどうしても打ち明けることができなかった。  優しいあなたは、誰のことも傷つけたくなかった。生身の心体を伴っている限りそんなことは到底無理だとわかっていて、それでも、どうしても打ち明けることができなかった。  夏が終わって秋が過ぎ、冬が始まろうとしていた。  すでにお馴染みになりつつある(くだん)の顔ぶれで飲んだ帰り、同じ地下鉄の沿線に住む原口さんとあなたは二人きりで最終電車に揺られていた。その日、あなたより二駅手前に住むウミちゃんは体調不良で欠席していた。
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