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優しいあなた
輪を外れ、前髪に隠れるようにして教室の隅で俯くウミちゃんの手を、さりげなく引いてあげたのはあなただった。消しゴムを忘れたことを先生に言い出せず困り果てていたウミちゃんに、買ったばかりの自分の消しゴムを半分に割って、こっそり渡してあげたのはあなただった。
いつだって、優しすぎるあなただった。教室の水槽をひっくり返してしまったウミちゃんの蒼白した顔面を見て、思わず罪を被ったのはあなただった。床で跳ねる金魚を両手で掬い上げたのも。
「あいかわらずどんくさい子ね」
無実のあなたを、延々と先生はなじった。立たされた廊下はどこまでも冷たかった。優しいあなたにとって、学校は易しい場所じゃなかった。成績、身体能力、容姿のよしあし、声の大きさ、友達の数、生家の貧富ーー
公に、あるいは水面下で、誰彼からあらゆる尺度で優劣をつけられた。
みんな、負けないように必死だった。けれどあなたは、誰とも競いたくなかった。誰に勝ちたくもなかった。先生にとってそんなあなたは、どんくさい子だった。
ごめんねと泣きじゃくるウミちゃんの肩を、あなたは柔らかく撫でてあげた。
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