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「……テレジア嬢?」
いきなり表情を暗くした私を見てか、ラインヴァルト殿下が声をかけてくださる。
なので、私はゆるゆると首を横に振った。なんでもない。そうだ。なんでもない。
(これは、私の問題なんだ……)
ラインヴァルト殿下には、関係のないことだ。
そう言おうとして、顔を上げて驚く。……先ほどまで対面にいたラインヴァルト殿下が、いない。
しかも、すぐ隣から「テレジア嬢」と囁かれる。飛び上がりそうなほどに驚いた私は、多分目を真ん丸にしている。
「なんでもないわけがないだろ。……なんていうか、辛そうな顔、してる」
「そ、そんなの……」
多分、彼の指摘は正しい。私は今、見るに堪えないほど辛そうな顔をしている。
それがわかるからこそ、目をこすろうとした。けど、すぐに手を掴まれる。
「目をこするな。……傷つくぞ」
まるで幼子に言い聞かせるかのような、優しい声だった。
そんな風に声をかけられたことのない私は、ただ戸惑う。
「なにか、思うことがあるんだろ?」
彼が私の顔を覗き込んで、そう問いかけてこられる。
言えない。言えるわけがない。だって、私の考えは……ラインヴァルト殿下を、傷つけてしまう可能性がある。
(勘違いしたくない。けど、このお方を傷つけるのも嫌だ……)
私は、なんて傲慢なんだろうか。
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