第1話

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 そうおっしゃった彼が、私にじりじりとにじり寄ってくる。  ……ここで退くのは失礼だと思ったので、私は動かなかった。  肩と肩が触れ合いそうなほどに近い距離。彼が私の顔を覗き込む。……心臓がとくとくと早足になるのは、必然だ。だって、こんなにも美形のお人が――側にいるなんて。 (いいえ、それだけじゃない……)  そうだ。それ以外にも、こんなにドキドキとしている理由がある。 「……あの、一つ、お尋ねしてもよろしいでしょうか?」  恐る恐るそう問いかければ、彼は「いいぞ」と言葉をくれた。  なので、意を決して口を開く。……声は、震えていない。けど、凛ともしていない。 「あなたさまは……その、王太子さまであられる、ラインヴァルト殿下、ですよね……?」  ラインヴァルト・アルド・ヴォルタース。  それは、このヴォルタース王国の王太子殿下のお名前。数年前から隣国に留学されていて、帰国されるのは一年に一度か二度。  王族としても屈指の優秀さを誇り、幼少期から大臣をも唸らす政策を提示してきたという。……そんな、お人。  私が彼を見上げていれば、彼はにんまりと口元を緩めた。美しい顔に、不思議なほどにその笑みが似合っている。 「そうだよ。……しかし、よくわかったな」 「……王太子殿下は、ルビーがお好きだと、聞いておりましたので」  彼の手元に視線を落として、そこにあるルビーの指輪を見つめる。  王太子殿下は煌びやかな宝石などは好まないのに、どうしてかルビーだけは好んでいるというお話だった。
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