第1話

13/22
前へ
/181ページ
次へ
「あんた、テレジア嬢だよな。……エーレルト伯爵家の」  ラインヴァルト殿下のおっしゃった名前は、確かに私のものだ。  ……この国を離れて長いというのに、このお方は貴族の名前をすべて把握されているのかもしれない。  素直に、尊敬できる。 「言っておくけど、俺だって全員の顔と名前が一致するわけじゃないぞ。……国に戻ってきたから、今から本格的に一致させる作業をするつもりだ」 「……なんですか、それ」  一致させる作業って……。  そう思うと、自然と笑みがこぼれた。 「いいよ。……そういう風に笑ったほうが、あんたは可愛いから」  でも、さすがに……そういうお言葉はどうなんだろうか?  こんなにも顔の整ったお方にそう言われると、顔から火が出そうなほどに恥ずかしくなる。 「お、お世辞は、よしてください……!」  私は特別美人でもなければ、可愛くもない平凡な娘だ。  そんな私がラインヴァルト殿下ほどのお方に褒められると、恥ずかしくてたまらない。……勘違い、してしまいそうになる。 (けど、ダメよ。思いあがっては、ダメ。ゲオルグさまは、私のことを地味だとおっしゃっていたもの……)  これは、きっと。ラインヴァルト殿下なりの励ましなのだ。そう、思いこむことにした。
/181ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1098人が本棚に入れています
本棚に追加