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「あんた、テレジア嬢だよな。……エーレルト伯爵家の」
ラインヴァルト殿下のおっしゃった名前は、確かに私のものだ。
……この国を離れて長いというのに、このお方は貴族の名前をすべて把握されているのかもしれない。
素直に、尊敬できる。
「言っておくけど、俺だって全員の顔と名前が一致するわけじゃないぞ。……国に戻ってきたから、今から本格的に一致させる作業をするつもりだ」
「……なんですか、それ」
一致させる作業って……。
そう思うと、自然と笑みがこぼれた。
「いいよ。……そういう風に笑ったほうが、あんたは可愛いから」
でも、さすがに……そういうお言葉はどうなんだろうか?
こんなにも顔の整ったお方にそう言われると、顔から火が出そうなほどに恥ずかしくなる。
「お、お世辞は、よしてください……!」
私は特別美人でもなければ、可愛くもない平凡な娘だ。
そんな私がラインヴァルト殿下ほどのお方に褒められると、恥ずかしくてたまらない。……勘違い、してしまいそうになる。
(けど、ダメよ。思いあがっては、ダメ。ゲオルグさまは、私のことを地味だとおっしゃっていたもの……)
これは、きっと。ラインヴァルト殿下なりの励ましなのだ。そう、思いこむことにした。
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