第1話

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「あと、今更だけど寒くはないか?」 「……いえ、大丈夫です」  確かに少し日が落ちてきて、肌寒くなってきた。だけど、まだ大丈夫。  そういう意味を込めてゆるゆると首を横に振れば、ラインヴァルト殿下は「だったら、よかった」とおっしゃる。 「けどまぁ、あんまりここに長居することは出来そうにないな」 「……そう、ですね」  自分の声は驚くほどに、沈んでいる。だって、そうじゃないか。  ここに長居出来ないということは、お屋敷に帰らなくちゃならない。……つまり、お父さまやお母さまとお会いしなくちゃならない。 (もう、婚約破棄の件は伝わっているでしょうね。……そうなれば、私は最悪お屋敷にも入れてもらえないわ……)  寒空の下で、一晩を明かすことが出来るのか。  そこまで想像して、ぶるりと背筋を震わせる。それに、野宿なんてしたことがない。お金も持っていないので、宿を取ることも出来ないし……。 (というか、そもそも宿ってどうやって取るの……?)  その時点から、問題だった。 「……テレジア嬢?」 「え……あ、はい」  ラインヴァルト殿下にまた顔を覗き込まれて、ハッとする。彼はどうやら私のことをずっと呼んでくださっていたらしく、そのお綺麗なお顔に心配の色を宿している。……あぁ、悪いことをしてしまった。 「なに、ぼーっとしてるんだ。なにか、困っていることでもあるのか?」  ……そう問いかけられても、素直に言えるわけがない。  王太子殿下であられる彼に、私の事情を話すこともはばかられた。 (お屋敷に帰りたくないなんて、言えるわけがない。……ここは、誤魔化さなくては)  そう思って、私はぎこちない笑みを浮かべる。
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