第1話

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 すぐには反応できなかった。  告げられた言葉をかみ砕くのに、数十秒を要していたと思う。  ただただぼうっと《彼》を見つめていれば、彼は嫌そうに眉を顰めた。 「なんだ、驚きすぎて言葉が出ないのか?」  そう問いかけられても、私は上手く反応が示せなかった。  ぎゅっと手を握って、必死に脳内を動かす。……言葉をかみ砕けても、理解はできない。 「なら、もう一度言ってやる。――俺は、お前との婚約を破棄する!」  今度は高らかな宣言だった。  ……聞き間違いとか、そういう風に誤魔化せるようなものじゃない。 (……婚約、破棄)  目を伏せて、ぎゅっと唇を引き結んだ。  静まり返った周囲の空気が、肌にまとわりついているようで気持ちが悪い。あと、周囲の人たちが私を見てこそこそと話しているのも、気持ちが悪い。  耳障りな言葉たちが、耳に届く。……あぁ、嫌だ。 「どう、してで……ございます、か」  震える声を必死に抑え込んで、私は婚約者だった彼を見てそう問いかける。  彼は、にんまりと口元を緩めている。その笑みは、私がこの世で大嫌いだと言い切れる笑みだ。
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