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「ですがとか、だけどとか。そういうネガティブな考えは、捨てろ。……俺はほかでもないあんたがいいんだ」
熱烈な言葉に、心臓がとくんと高鳴った。
「なんだったら、いっそ王城に住め。……そこでだったら、俺が守ってやれる」
……どうして、このお方は私にここまでしてくれるのか。
それがわからなくて、混乱して、頭の中がぐちゃぐちゃになる。
「……あんたの元婚約者からも、エーレルト伯爵夫妻からも。……あんたを傷つけるものは、俺が許さない」
私の目と、ラインヴァルト殿下の目が醸し出す視線が絡み合う。……もう、なにも返せない。
(無理だって、突っぱねたい。……だけど)
突っぱねたいのに、その提案に手を伸ばしてしまいそうな私もいる。
ずっと、ずっと憧れていた。素敵な人が、私をここから連れ出してくれるんじゃないかって。
両親からも、ゲオルグさまからも。助け出してくださるんじゃないかって。そう、願ってきた。
「俺は、あんたを、テレジア嬢を幸せにしたい。……そのために、今まで頑張って来たんだ」
「……で、んか」
「だから、一緒にいてくれ」
懇願するような色を宿した、声。胸がぎゅっと締め付けられて、断りの言葉が口から出てこない。
断らなくちゃ、断らなくちゃ――って、思うのに。
(……この手を、取りたい)
浅ましい私は、ラインヴァルト殿下の手に――自らの手を、伸ばしてしまった。
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