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「さて、というわけですので、お支度をしましょうか」
そんな私の気持ちも知らないミーナは、パンっと一度だけ手をたたく。そして、てきぱきと動き始めた。
彼女の勢いに、私はただただ押されることしか出来ない。顔を洗うためのぬるま湯の入った水桶とタオルを差し出され、私はちょっと遠慮しながら顔を洗う。
「本日のドレスはどうなさいますか? 折角ですし、桃色などどうでしょうか?」
「……ちょっと待って。そのドレスは、どうしたの?」
ミーナの取り出したドレスを見て、私はそう問いかける。彼女はきょとんとしつつ、さも当然のように「ラインヴァルト殿下が、ご用意されておりましたよ」という。
……一体、どういうことなのか。
(けど、まぁ……。着替えなんて用意してないし、一度は甘えなくちゃならないわよね……)
昨日のドレスを着ることも考えたけれど、あれはパーティー用のものだ。普段着にするには、いささか重すぎる。
「好みではないかもですが、また追々仕立てられるとは思いますので、本日はこれで妥協してくださいませんか?」
「こ、好みじゃないわけじゃないわ……!」
そうだ。こんな可愛いドレスが好みじゃないわけがない。私には、似合わないかもしれないけど。
「だけど、私には可愛らしすぎないかしら……?」
フリルとか、装飾は控えめなデザイン。しかし、色が明るい桃色というのがいただけない。
そんな可愛いドレス、私には絶対に似合わない。
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