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「テレジアさまの髪の毛は、とても櫛の通りがようございますね」
「そう、かしら」
「えぇ、手入れが行き届いております」
多分、褒められているのだ。それは、わかる。……だけど、なんだかあんまり嬉しくない。
それは、私自身が自分の髪の毛を好きじゃないからだと思う。
「……お母さまが、髪の毛は大切にしなさいって、おっしゃっていたの」
ぽつりとそう言葉を漏らしてしまった。ミーナは、黙って聞いてくれている。
「髪の毛の美しい女性は好まれると、おっしゃっていたわ」
目を伏せる。すぐに思い出せるお母さまのお顔。あのお人は、私を公爵夫人にすることしか頭になかった。
「けれど、それは……うん。立派な公爵夫人に必要なことだからって、だけだったの」
身なりに気を付けるのは公爵夫人として絶対に必要なこと。
それを熱心に教えてくれた。……それだけだったら、どれだけよかったか。
「だけど、いつもお母さまは必ずその後おっしゃったわ。……お前は容姿がよくないのだからって」
容姿がよくないから立ち振る舞いはしっかりとしなさい。容姿がよくないから、人一倍身だしなみに気を使いなさい。
お母さまは、いつも私にそう言い聞かせていた。その言葉が、私の自尊心をボロボロにしていたなんて、考えもせずに。
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