第1話

3/22
993人が本棚に入れています
本棚に追加
/181ページ
「そんなもの簡単だ。お前のような真面目が取り柄なだけの女など、俺には相応しくない」 「……ですが」 「言っておくが、俺に縋ろうとも無駄だ。俺の心には、お前じゃない別の女がいる」  私の言葉など聞くつもりはないらしい彼は、私のほうに近寄って私を見下ろす。  幾分も高い背丈。威圧されるように見下ろされれば、私の身体は自然と縮こまったような気がした。 「大体、お前のような真面目しか取り柄のない地味な女が、俺の婚約者でいられたこと自体を感謝してほしい」  その言葉に、唇を噛んだ。 「もう少し愛想がいいとか、容姿が美しいとか。そういう目に見えて秀でているものが欲しい」 「……そ、んなの」  声が震えている。確かに私の容姿は地味かもしれない。愛想もないかもしれない。  でも、こんなのあんまりじゃないか。 (婚約破棄を告げるならば、せめて人のいないところでひっそりと告げてほしかった……)  こんな大衆の面前でするようなことじゃない。  まぁ、彼の目的は私に恥をかかせることだろうから、この場を選んだのだろうが。  いつだって彼は、私のことを邪険にし、手酷くあしらう。 「というわけだ。お前はもうさっさと立ち去れ。……この場に残られるだけ、不快なんだよ」  元婚約者が、そう言葉を投げ捨てて踵を返す。……私は、反応することが出来ない。
/181ページ

最初のコメントを投稿しよう!