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「冗談だ。……朝食は応接間に用意させた。明日からは、部屋に運んでもらう形にする」
「……お、おかまいなく」
この場合、どう答えるのが正解なのか。それがわからない所為で、私は顔を背けてそう言うことしか出来ない。
……本当に、このお方といると調子がおかしくなってしまう。心臓の音は早足になるし、なんだか無性に照れ臭いし。
「じゃあ、行くか」
ラインヴァルト殿下はそうおっしゃって、私の手を流れるような手つきで取られた。
そのままそっと歩き出されるので、私も彼についていく。
(エスコート、手慣れていらっしゃる……)
そりゃあ、王太子殿下なのだから、それは当然と言えば当然。……けど、なんだろうか。
彼がほかの女性をエスコートしている光景を想像して、ちくりと胸が痛んだ。
私は、彼の恋人でも婚約者でも、妻でもないというのに。
(あぁ、ダメよ。……勘違い、してはダメなの)
自分自身にそう強く言い聞かせる。勘違いなんてしてはダメ。私は愛されない娘だから。
……そう、自分自身に言い聞かせて、惨めな気持ちが蘇る。このお方に、私は相応しくないって。勝手に思って、勝手に傷ついた。
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