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心の中だけでそう呟きつつ、無理矢理口角を上げた。痛々しい笑みを、少しでも打ち消すことが出来れば――と思っていると、彼の手が私の頬に添えられた。
「……教えろ」
ラインヴァルト殿下が、私の目をまっすぐに見つめて、まるで命令するようにそうおっしゃる。
心臓がきゅっと縮こまったような気がする。それほどまでに、迫力があった。
「テレジア嬢のことだ。なにか、変なこととか余計なこととか考えて、落ち込んでるんだろ」
……図星だ。
なにも言い返せなくて、俯く。
「俺の言葉、信じられない?」
彼がそう続けた。……躊躇って、戸惑って。少し時間をおいて、頷く。
「だって、私は、あなたさまに愛されるような人間じゃない……」
今にも消え入りそうなほどに、小さな声でそう答える。
もしも、もしもだ。一時期の気の迷いだったとしたら。傷が浅いうちに、解放してほしいと思う。
このままだと、私は――浅ましくも、ラインヴァルト殿下に惹かれてしまう。恋心を、向けてしまうから。
「このまま優しくされると、勘違いしてしまいそうなのです。あなたさまに、惹かれてしまう」
まだ出逢って少ししか経っていない。一日すらも、経っていない。
でも、愛されることに飢えていた私は、浅ましくもこのお方の愛を望んでしまっている。
心のどこかで、愛されることはない。一時期の気の迷いだ。遊びだ。
誰かが、そう囁き続けると言うのに。
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