第1話

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 だけど、私にとっては周囲の野次馬たちのように楽観的な問題じゃない。  何故ならば、私は婚約破棄を突きつけられた当事者なのだ。……このままだと、どうなるのか。それくらい、想像力の乏しい私にだってわかる。 (……お父さまやお母さまは、とてもお怒りになるでしょうね……)  あのお二人は、ずっと私に言い聞かせていた。  ――お前の価値は、ゲオルグさまの婚約者。すなわち『次期公爵夫人』ということだけだ。  それが、あのお二人の口癖だった。  すなわち、その立場と肩書きがなくなった私に対する待遇なんて、誰にだってわかる。 (……どうしよう、どうしよう)  お屋敷に帰ったところで、どういう扱いを受けるかは大体想像がつく。  よくて勘当。悪かったら……何処かに売られるとか、そういうことだろうか。 (売られる……とすれば、悪い評判の絶えない貴族とか、老人の後妻とか。……あとは、娼館とか)  どう足掻いてもろくなことにはなりそうにない。……ならば、お屋敷に戻らずに逃亡する……ということも考えて、やめた。  だって、私には働く術がない。特別な技術を持ってもいなければ、庶民の常識にも疎い。こんな私を雇ってくれる人なんて、絶対にいない。  わなわなと唇が震えてしまう。徐々に手や身体も震え出して、恐ろしい未来に目をぎゅっと瞑った。 (ゲオルグさまを追いかける? 婚約破棄を撤回してって、申し出に行く?)  そんなことをしたところで、彼が考えを改めてくれるわけがない。彼は私のことを見下している。あの態度が、その証拠。  あと、彼は心に決めた女性が云々とおっしゃっていた。……私のことなんて、もうどうなろうが知らないというような態度。
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