第2話

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(……少し、時間を潰そう)  その一心で、私は踵を返した。が、すぐに「テレジア!」と名前を呼ばれる。  ……ほかでもないラインヴァルトさまのお声だった。  頭がすぐに理解して、逃げようと足が動いた……の、だけれど。 「テレジア、逃げるな」  彼のほうが、脚が長くて、早い。歩幅も大きい。つまり、私が逃げることは出来なくて。  ……私は、ラインヴァルトさまにあっさりと捕まった。 「……放して、ください」  震える声で、抗議をする。  彼ははっきりと「嫌だ」と告げる。  ……嫌なのは、こっちだ。 「テレジア。……なにか、あったんだろ? 俺、鈍いし女性の気持ちなんて、わからない。……だから、教えてくれ」  彼が私の頬を優しく指で撫でて、そう懇願してくる。  その指の感触に、私の心がぐっと締め付けられて。挙句、もう我慢も限界だった。 「テレジア!」  はらはらと、涙が頬を伝う。ぽたり、ぽたりと床に落ちる水滴。  ラインヴァルトさまが、慌てられている。止めなきゃ、涙を、止めなきゃ――。 「ラインヴァルトさまの、所為です……!」  開いた口から、漏れる悪態。ラインヴァルトさまが、私を凝視されている。 「もう、これ以上私の気持ちを弄ばないでください……!」  これ以上、コルネリアさまと仲睦まじい姿を見せつけられたら、私は、私は――。 (本当に、おかしくなってしまう。心まで、醜くなってしまう……!)  それだけは、いとも容易く想像できた。
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