第1話

2/22
170人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
 思えば、私の人生というものは。  大体、他者に奪われているのではないか。それに気が付いたのは、愚かなことに二十歳を迎えてからだった。 「彼女を責めないでくれ。……俺は、彼女が好きなんだ」 「……はぁ?」  自分の口から漏れたとは思えないほどに、間抜けな声だった。  私の目の前に膝をつき、私を見上げる婚約者の男。彼を強く睨みつけ、見下ろす。  彼はびくっと肩を一瞬だけ揺らすものの、すぐに側にいた女性に視線を向ける。  つられるように私も彼女に視線を向ける。が、「メリーナ」という男の声に引き戻された。 「責めるなら、俺を責めてくれ。彼女は、なにも悪くない」  そう言う彼に、若干どころかかなり腹が立った。  だって、そうじゃないか。私と彼の婚約は社交界の中では常識で、彼女も貴族なのだ。……知らないなんて言い訳が通じるわけがない。 「いいえ! 元はと言えば、アードリアンさまに惹かれてしまった私が悪いのです……!」  婚約者――アードリアンさまに縋りつく、女。いや、この場合は浮気相手というべきなのか。  まぁ、そんな彼女は私を上目遣いで見つめる。目にたっぷりの涙をためた姿は、庇護欲をそそる。その証拠に、アードリアンさまは彼女に「キミは悪くない」と声をかけていた。 (……口角上がってるわよ)  だけど、私は彼女の口角がほんの少し上がっていることに気が付いていた。  でも、指摘する元気なんてない。だから、露骨にため息をついてアードリアンさまの前で仁王立ちをした。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!