第2話

5/23
前へ
/45ページ
次へ
 そうしていれば、不意にぐぅっという音が聞こえて来た。  ……その音が私のお腹の音だと気が付いて、顔にカーっと熱が溜まる。 「その、なんでも、なくて」  今にも消え入りそうなほど小さな声でそう言う。すると、ヴィリバルトさんはきょとんとしていた。  その後、今思いついたかのように手をポンっとたたく。 「お腹が空いたのですね。じゃあ、食事にしましょう」  彼はなんてことない風にそう呟くと、私に視線を向ける。 「身支度が整ったら、来てください。食事をする場所は廊下を右に突っ切って、一番奥です」 「……え、あ、はい」 「じゃあ、俺は先に行って待っていますね」  にこりと笑みを浮かべたヴィリバルトさんは、すたすたとお部屋を出て行った。  残された私は、ぽかんとする。開いた口がふさがらないとは、まさにこういうことなのだろう、なんて。 (お腹の音には、触れなかったわ……)  もしくは、触れるのはタブーだと思ったか、だ。  まぁ、触れないでくれたのは素直にうれしかったので、そこに関して私ももうなにも言わないでおこう。  その一心で、私は寝台から起き上がって、部屋をぐるりと見渡す。そして、部屋の隅にある鏡台らしきものに近づいた。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

227人が本棚に入れています
本棚に追加