227人が本棚に入れています
本棚に追加
そんな風に思いつつ視線を下げていれば、ふとヴィリバルトさんが声を上げた。
「そういえば、これから行く当てはあるんですか?」
「……いえ」
彼の問いかけにゆるゆると首を横に振る。
そうだ。今の私は、そんなことを考えている場合ではないのだ。
(住む場所とか、働く場所とか。探さなくちゃ……)
貴族の娘を雇ってくれる場所なんて、あるのだろうか……?
という不安を抱いて、頬を引きつらせてしまう。
(それに、いつまでも宿を借りているわけにもいかないわ。お金ばかり、かさんでしまう)
ある程度はお金があるとはいえ、一生宿暮らし……なんていうのは、絶対に無理だ。本当に無理だ。それくらい、私にもわかる。
つまり、今私がするべきは。
(お仕事を見つけて、アパートを借りるということ)
ある程度のお仕事があれば、アパートだって契約できるだろう。
よし、決めた。
「ただ、この後お仕事を探して、アパートでも借りれたら……とは、思っています」
パンをちぎりつつ、私はそう伝える。
「しばらくは宿暮らしになるでしょうが、それも仕方がないことですし……」
雨風をしのげるだけ、マシというものだろう。
私が肩をすくめてそう続ければ、ヴィリバルトさんが少し考えこむような素振りを見せた。
最初のコメントを投稿しよう!