空転衛星

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「夜は夕方をつつみこむ。だからあなたは妹。そして、私は姉。私のことはお姉さまと呼びなさい」  私が自我を手にいれた時、夜式—―お姉さまは、そういった。  ZT1152410夕式。  これは私の個体識別コード。  ZT1152410夜式。  これはお姉さまの個体識別コード。    博士は、理由は不明だが、夕式から感情調整システムを排除した。  簡単にいえば、人間らしいふるまいができない。  しかし、システムがくみこまれた夜式には、同個体への思慕の念がある。  夜式は私を用いて、姉妹のまねごとをしている。    月に隣接するちいさな惑星がわたしたちの任務地だった。  生き物がいない、資源もとぼしい、価値のない惑星だった。  ここから、黒い煙がただよう私たちの母星—―「青い星」を観測できた。  未来の話だけれど、青い星のどこかで、膨大なエネルギーを内包した、危険なミサイルがとぶ可能性があるようだ。  私たちは、特殊な電波を体に内包していた。月の光で発電をおこない、私たちはたえず、その電波をつくりつづけた。  電波は、電子器具に支配された、ミサイルの軌道を、この惑星にみちびくことができる。もしも発射にいたれば、私たちはミサイルに電波をおくり、国の盾になる。  惑星での生活は暇をもてあました。  暇な時間にやることといえば、砂遊びか、お姉さまのお説教をきくか、流れ星の数をかぞえるか、くらいしかなかった。 「お姉さま、ひまですね」 「ひまなことはいいことよ。だって、平和の証だもの」 「あーぁ、早く、ミサイルとばないかなぁ」 「夕。ミサイルがとぶということは、この惑星の消滅、つまり私たちの消滅とひとしいのよ。あなた、わかっていっているの?」 「でも……ずーっとおんなじ空をみていても、つまんない!」 「おんなじ空を維持することが、一番むずかしいことなのよ。ホラ、私たちのすんでいた星をみてごらんなさい」そういって、黒い煙につつまれた、星をゆびさした。  私たちが「青い星」を旅たつ時、地表をおおう膨大な液体は、青色をしていた。  お姉さまは、ロケットのなかで「あの液体は、ウミというのよ」とおしえてくれた。ウミは、青い、大量の液体であった。魚介類と、大量の神秘がねむっている。  現在、この惑星からみえるウミは、醜い黒色に変色していた。  
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