《二年目》

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《二年目》

SIDE.朝陽  春、朝もやのさくらの木のしたでふたりを見つけた。  近所のコンビニで何度か見かけたことのある顔、たぶん同年代。いつもは無表情な彼の恋人をみつめる表情が、こころのなかにやきついた。相手は三十代半ばのいわゆるイケオジ。落ちついて見えるけれど遊んでいそうな感じ。なのに、ひとめでふたりは好き合っているんだとわかった。  田舎から出てきて二年。そういう場所以外で俺と同じように、おとこがすきだというひとに出会うのははじめてだった。  春、息吹と友だちになった。  あのときの、愛しそうな、幸せそうなかおが忘れられなくて、ついコンビニで声をかけた。手にしたマンガが同じっていう、それだけでもうれしかった。話してみれば俺たちはアパートも近くて、年齢もひとつ違い。息吹は専門学校の生徒で、俺は大学生。けれど学んでいるものは同じ建築関係ですぐに仲良くなった。  けれどあのときの彼のことは聞けなかった。  夏、息吹にすきだと言った。  いつの間にか息吹のことがすきになっていた。偶然、あの時の彼が専門学校の講師だということも、既婚者だということも知った。自分が自分じゃなくなるみたいに、激しい感情におどろく。彼から息吹をうばってやりたいとおもった。  勢いのまま、恋人には大切にされているのかと聞くと、あまりに愛しそうな顔で「すきなんだ」と答えるから、何も言えなくなった。息吹のきもちは彼だけを見ている。  それでもあきらめられなくて、すきだと伝えた。  秋、はじめて息吹のなみだを見た。  すこしだけ独りよがりな自分が気まずくて、すきだと伝えてから息吹とは距離ができた。あそびに行くのも気軽に誘えなくなって、さみしくてひとり酒でもしようかとやってきたコンビニで、酔った息吹に会った。  部屋に息吹を連れこんで二人で酒を飲んだ。息吹はなみだをかくしてさみしいと言った。俺と一緒にいられなくてさみしいって。酒のまわった俺のあたまは、それだけで理性をなくした。  息吹をだきしめると意外なほど、男らしいからだをしていた。その意外さに興奮した。素肌にふれたくてTシャツのすき間から手を差し込む。すべらかな肌をなでると、酒くさい熱い吐息がこぼれた。  太陽のひかりでうす茶色く透けるひとみは、蛍光灯のあかりの下では深い茶色になる。そこにうつる、息吹が見上げている俺のシルエットをみながら、はじめて息吹にくちづけた。  俺たちは酔っている。  それを理由にして、言いわけにして、息吹をだいた。  ふるえるくちびるは、俺の舌をうけいれてやわらかく、熱くなった。舌をからめて、息吹の嗚咽を直接のみこむ。あ、とこぼれる声がかわいくて、興奮したからだを押しつけた。ふるえるからだをつよくだきしめる。 「すきだ」とは言えなかった。言えないかわりにだきしめて、言えないかわりにくちづけた。  ふれるたびに息吹は、あ、あ、と声をもらす。それだけでたまらなくて、小さなむねの突起を噛んだ。びくんとからだが跳ね、つよくだきつかれる。硬いデニム生地のなかで硬くなった性器に、先に手をのばしたのは息吹だった。  優しくなでられて我慢できずに、自分でベルトを外してジーンズと下着を脱ぎすてた。格好悪いほど興奮して勃ち上がった性器は、とろりと透明なしずくをためている。息吹はおとなしく俺に脱がされるのを待っていた。  いまさら心臓がばくばくして、本当にいいのかと頭のすみで考える。けれどふるえる手は止まらず、息吹の衣服をはぎ取った。はじめてセックスをした時よりも緊張していた。  長い脚を際立たせるクロップドパンツをおろすと、ぴったりとした下着のしたで息吹のそれが硬くはりつめている。熱を感じているのか俺だけじゃないことにうれしくなって、下着のうえから熱いかたまりにキスをした。 「……や、めて」  はじめての制止に手が止まり、それから「……はずかしい」と続けられた言葉に安堵する。いとしくてしかたないそこに、なんどもキスをしてそっと下着をずらす。ぴょこんと飛び出した先端を舐めると、すこししょっぱい息吹の味がする。  ふたりとも酔っぱらって、シャワーも浴びずに、散らかった部屋のなか、ベッドもあるのに床に敷いたラグのうえで。それどころか、すきだとことばにすることもできない。なにひとつ理想とちがうのに、なによりもたいせつだと、だいすきだと叫ぶこころの声だけはほんものだった。  衝動のままだいて息吹のなかに精を放ったあと、ちからを無くした息吹はくたりとして眠ってしまった。さいごにつぶやいたなまえがだれだったのか、聞き取ることはできなかった。  冬、何も聞けないままの関係が続いていた。  春になったら息吹は社会人になる。息吹が住んでいるのは学生専用のマンションで、きっと春には引っ越してしまう。学校の講師だという恋人のことは、ずっと聞けないままでいたけれど、彼とも距離ができるだろう。  チャンスだとおもう。  ずるくてもなんでもいい。息吹がいつか見たあの顔で、俺に笑いかけてくれたら。  けれど息吹は泣いていた。  落ちこむ日が増えて、食事をとる量が減った。目に見えてやせ憔悴してゆくのに、息吹はだいじょうぶと笑った。見たかったのはそんな笑顔じゃなくて……。  なのに俺にできることはほんの少ししかない。食事に誘ってもあそびに誘っても、気休めにしかならなくて。せめてひとりで泣いて欲しくなくてだきしめると、緊張してからだをちぢこまらせた。俺と息吹のあいだにある手がふるえて、押し戻そうか迷っていた。  それに気付いてしまったら、もうふれることができなくなった。
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