18人が本棚に入れています
本棚に追加
《・・・》
SIDE.講師
「このひと誰? 生徒さん?」
そう聞いた妻の手には古い彼の写真。専門学校の講師とセミプロ写真家、その肩書きは今日からひとつ外れて写真家だけになる。といっても写真の仕事があるからではなくて、定年で講師をやめたから。
その写真は、講師時代の唯一のこころのこりだった。誰も裏切るつもりはなかったけれど、かぞくを裏切って彼を傷つけた。だけどほんとうにすきだった。残ったのはそれだけだけれど、あれが最後の恋だったとおもう。
証拠のようなその写真は、何度も捨てようとして、結局ずっと手元に置いたまま二十年以上が経っていた。
「生徒じゃないよ。たまたま撮っただけなんだけど、いい笑顔だろう」
気に入ってるんだ、と写真を受け取って、カメラバッグの中にひそませる。
そうしてまたぼくは、写真を捨てそびれたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!