《一年目》

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《一年目》

SIDE.息吹  春、ひとりぐらしをはじめた。  初めての都会ぐらしは、田舎からも家族からも解放されて、ようやく自由になったんだとおもった。けれど、三日目にはさみしくなって、五日目には心細くてこっそり泣いた。  田舎者のコンプレックスは、今おもえば笑っちゃうくらいささいなものだけれどあの時は必死だった。いくら格好つけてもなまりことばが抜けなくて、会話するのがこわかった。  春、せんせいに会った。  洗練されたってこういうひとなんだとおもった。映像からでてきたみたいに格好良いのにやさしくて、こんなひとになりたいと憧れた。せんせいにほめられたくて、意気込みすぎた課題は提出期限ぎりぎり。  教室にさいごまで残った俺を、あせらなくて大丈夫だといつまでも待ってくれた。  春、せんせいのことがすきになった。  ほかの生徒には内緒だよといたずらに笑って、てのひらにキャンディを落とした。  男のひとがすきだという自覚は、ずいぶんと前からあった。ひとの少ない田舎では、そんな性癖はかくすことしか出来なくて、淡い想いはいつでも一方通行。恋にそだつまえに散っていた。  せんせいが、初恋だった。  夏、せんせいにすきだといった。  成年、未成年混ざっての懇親会という名の飲み会。うっかり酔っ払った俺を介抱してくれた。ふたりきりの車内、初めての酒にふわふわとしたあたまは自制心を失って、せんせいに想いをつげた。  せんせいは、うれしいと言って手をにぎってくれた。暗い公園の駐車場。はじめてキスをした。ドキドキしてどうしたらいいかわからず、石みたいにかたまった俺に、今日は先生やめてもいいかな?とささやいた。  俺とせんせいの関係が始まった。  うわさというのは、誰のことかわからなくても、ふしぎと本人の耳には届かない。いや、もしかしたら俺が意図的に聞かないようにしていただけかもしれない。  俺がそのことを知ったのは、いちばん寒い季節。  冬、せんせいのこどもが生まれた。  せんせいは何もいわなかった。結婚していることも、こどもが生まれたことも、それから俺のことがすきだとも。  ただせんせいのことをすきだった。せんせいは受け止めてだきしめてくれた。それだけで良かった。はじめての恋心は制御できなくて、せんせいが何も言わないのをいいことに知らないふりをした。苦しさは気づかないふりをした。  忙しい専門学校は案外と夜がおそい。カリキュラムはぎゅうぎゅうに詰まっていて、たったの二年間で専門知識を叩きこむ。資格を取るための授業はともかく、せんせいの教える、補助的な技術の授業に熱心な生徒は少ない。  夜、すべての授業が終わってそれから。 「課題、やっていく?」  そう聞かれたら、うん、と答えて準備室にゆく。鍵をかけ近付いて手をのばすと、ふわりと男らしい香水のにおいに抱かれる。それだけでぎゅっと胸がいたくなる。  好きですきで、たまらなくなる。  くちびるを寄せて俺からキスをした。ふかくくちをあわせると、せんせいのひげがざりと肌にあたって、それだけでからだがぞわぞわとしてくる。 「せんせい、」  名前をよんで許しを乞うて、せんせいの足元にひざまずく。ベルトを外すおとがひびく部屋。時おりとおくで誰かの足音が聞こえる。  くつろげた場所から、まだやわらかな性器をとりだして、先端にキスをする。せんせいの熱がてのひらから、くちびるから俺につたわって、いとしくていとしくて仕方のないそれを、そっとくちにふくんだ。あまくてにがい、せんせいの味。  まだ育ちきらないそれを、奥まで咥えこんで舌とくちびるでそだててゆく。はぁ、ともらしたせんせいの吐息。かすれたそのおとを、のみこんでしまいたい。ひくりと動いて、だんだんとおおきくなってゆく性器。そうなってしまうと、もう俺はだめになる。  どくん、どくんと聞こえる鼓動は、どこで鳴っているんだろう。スリムタイプのチノパンの中で、痛いほど性器がはりつめている。胸の先がうずいて、はらの中にも欲しいと、性器にされたそこがきゅんと締まってせんせいを待っていた。  だけれどくちのなかいっぱいのそれを離したくなくて、のどのおくまで誘い込む。んぐ、とのどを鳴らして、そこでせんせいを締めつける。あ、と小さなこえが聞こえたら、それだけでうれしくて、からだのなかにびりびりと電流が走った。  俺のかみをなでる手が、ポケットの中から小さな包みを取り出す。今日はいれてくれるんだ。そんなことにもうれしくなって、おおきく育てたものからくちを離すと、せんせいが小袋から取り出したうすピンクのゴムを、するすると器用にそこに被せてゆく。  それをじっとみながら、俺は手早く下着ごとパンツを抜き取った。準備はトイレですませてきた。自分の指をさしこんで、それを確かめる。ぬるりと体温でぬくまったローションが垂れた。  おんなだったら、こんなものなくても簡単にいれられるのに。  自虐的にそうおもって、けれどもおんなより面倒だとおもわれたくなくて、机に突っ伏し、ひろげた穴をせんせいに差し出した。
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