ねえ、質問してもいい?

7/7
64人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
海斗が家に来て、どのくらい経ったのかは数えていない。海斗は俺の家に住んでいるし、俺達は何度も体を重ねている。 好きだと言ったのは初めて身体を繋げた日の一度きり。それ以降はなにも伝えてはいないし、あの幻聴も聞こえてはこない。 夕飯の買い出しに行くと伝えると、彼も着いてくるというから、一緒に出かけた。 立ち寄ったスーパーで、手頃な野菜を見ていたとき、秀次とその恋人らしき人の姿が視界に入って、身体が固まる。 向こうが俺に気がついて近寄ってきて、なんだか吐きそうだった。 「久しぶりだな」 声をかけられて、思わず持っていた野菜を落としかける。 久しぶりに見た秀次は前となにも変わらない。違うのは、彼の隣には俺ではない他の人が居るということだけだ。 「上手くやってんだな」 秀次が弟である海斗を見て言う。 その言葉に含みがある気がして、どういうことかと尋ねた。 「話してないのか?」 「兄さん黙って」 秀次を睨みつける海斗。二人を見ながら戸惑う俺。 「お前が頼むから、電話したんだぞ?」 「兄さん!」 話が読めない。どういうことなんだ。 「俺はお前に恨まれても仕方ないし、謝りたいと思ってた。でも、弟のことはαだとか、俺の弟だからとかそういうの無しで見てやってくれよ」 秀次にそう言われて、ますます首を傾げる。 「話が読めないんだけど」 「弟に聞いてくれ」 丸投げされた彼は、眉を垂れさせて困った表情を浮かべていた。 秀次たちと分かれて、二人で家に帰ると、先程のことを質問した。 曰く、海斗は俺のことが好きで、たまたま兄の元彼が俺だと知った海斗は、秀次に俺とのことを相談した。恋人と同棲をしたかった秀次は、弟の手助けをする形で、俺に電話をかけてきた、ということらしい。 「ごめん……騙すみたいになってしまって……」 「……ちょっと整理させて」 海斗が俺と同じように思ってくれていたことは嬉しい。 でも、同時に怖いとも思う。両思いの先を知っているからこそ……怖い。 秀次と恋人さんの幸せそうな姿を見たからこそ、ますます恐怖は強くなった。だって俺はβだ。 「……俺……」 今の、ぬるま湯のように心地よくて、曖昧な関係のままで居たいと思うのは、我儘だって分かってる。 「ねえ、質問してもいい?」 彼が問いかけてくる。俺はそれに頷くことしか出来ない。 「……俺のこと、好き?」 ああ……、ずるいよ本当に。 「……好き」 涙が溢れてくる。だって、嘘なんてつけないだろ。好きなものは好きなんだ。 でも、怖い。好きだから怖い。 「俺も好き」 「っ、いつか好きじゃなくなるかもしれない」 「ずっと好き」 「運命の番が現れたら?」 「そんなの関係ないよ」 少しずつ距離が近づいていく。 唇が重なって、嗚咽が漏れた。 「俺、βだよ」 「βでもΩでも、なんでもかまわないよ。俺はあなたが好きなんだから」 角度を変えて何度もキスをする。 今までで一番甘いキス。 「愛してる」 俺もだよ。幸せすぎて、やっぱり怖い。でも、今は彼に身を任せたいと思った。 だって、αだけど、海斗は海斗だから。 それで今はいいんだよなきっと。 自分からも少しだけ境界を超えてみよう。 βだからなんて言い訳は捨てて、ちゃんと海斗と向き合いたい。 「俺も愛してるっ」 end.
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!