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「ふーん」
不機嫌さを帯びた相槌のあと、一瞬唇が触れて、すぐに離れる。それから、体勢を元に戻した彼が、帰りますって言って荷物を手に取った。
思考はぐちゃぐちゃだ。さっきのキスの意味を教えて欲しい。でも、知りたくないとも思う。
「まって!あのっ……」
考え無しに呼び止めたら、彼はいつもみたいに振り返ってくれた。
やっぱり、どこか不機嫌そうな表情に見えるのは気のせいなのかな。
「行く宛てあるの?」
「今日は近くのホテルか、ネカフェにでも泊まろうかなって」
「その後は?」
鼓動がやけに早い。心臓が爆発しそう。
首を傾げる彼に、大股で近づく。
期待なんてしちゃダメだって分かってる。αなんて好きになっても、辛いだけだ。
でも……でもさ……
「ここに居たらいいじゃん」
今、海斗を帰したら後悔する気がする。好きって気持ちには抗えないんだ。
「……いいの?」
驚きに顔を染めた海斗が、困った様子で聞いてくる。
「う、うん!」
大きく頷いて、彼が持っていた荷物を受け取ると、床に置いてあげた。
顔を上げれば、長い指が頬を撫でてくる。ゆっくりと下へ降りていった手が、器用に俺のシャツのボタンを一つ外した。
「本当にいいの?」
その、いいの?っていう言葉に、どんな意味が含まれているのか想像したら、顔が熱くなる。
「好きな人、いるんでしょ?」
「うん……」
言いながら、顔がまた近づく。
いつもとは違うキス。もっと、濃密で、頭の奥底まで溶けてしまいそうな程の快感を与えられる。
ベッドへと倒れ込んで、沢山鳴かされて、デリのときには、最後まではしないのに、彼が俺の耳元で、「入れたい」って低く艶やかに囁くから、壊れた玩具みたいに何度も頷いて、彼を受けいれながら、また死んじゃいそうなくらい泣いて喘いだ。
好きな人に抱かれるのがこんなに幸せなんて、忘れていた。
やっぱり海斗は秀次とは違って、優しく俺の快感を引き上げるような腰使いをしてくれる。
気持ちよくて、頭がふわふわして、意識がぼんやりしかけると、キスをして、その合間に朧気ながら、何度も好きだと口に出した。
意識が飛ぶ寸前
「俺も好き」
って幻聴が聞こえてきて、それが嬉しくて、泣きながら下手くそに笑う。
そうして、幸せな気持ちのまま意識を飛ばした。
目を開けたら、隣には海斗がいて、夢じゃなかったか……って少しだけ悲しくなった。
いっそ夢なら諦めもつくのに、これは現実だから、俺はまだ無謀な恋をしている。
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