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──この世に恒久の愛があるとするならきっと星の形をとるだろう。昼の空にたなびく雲は天気ひとつでその装いを変え、夜の空に輝くましろい月は日により姿形を変えていく。姿を眩ませた夜に人は何を頼りに歩くのだろうか。答えがひとつだけだとするなら、先人たちは星だと口を揃えて言ったはずだ。
俺は空を見上げて両手を目一杯伸ばす。頬を撫でる冬の夜の凍てつく空気を切って、裂いて、くらい空に数多に輝く星のひとつくらいはこの腕に抱かれにきてくれやしないだろうか。願いよ、届け、届け。人間の姿を象る自分にはこの二本のかいなしかない、大事なものはひとつしか抱けやしないのだ。
「──」
冷たい空気を肺腑いっぱいに吸い込むと、胸を灼く渇望にも至らないなまぬるい願いに浸された溜息に変えて、ひといき。──分かっている、解っている。数多の星のひとつが落ちてきたところで俺の願いは叶いはしない。瞬く星は『俺』の願いを叶えるために落ちてきたわけではなく、ただ卑小な『人間』に邯鄲の夢を見せにきたに過ぎない。
「──」
力強く伸ばしていた手をゆっくりと下ろす。
分かっているんだ、本当に欲しいものは。駄々を捏ねる子供のように、縋る童のように手を伸ばしたところで決して届きはしない。分かっているんだ。
ああ、それでも。それでも。
「──変わらない愛があるのなら、その時は空から俺に会いに来てくれやしないか。
君が居た日々が忘れられない。独りで抱えるにはあまりに思い出が眩し過ぎた」
力なく下ろされた左手の薬指に輝くのは、ひとりぼっちになった銀色の光。
項垂れた俺の足元。アスファルトに小さな水滴がぱたぱたと穿たれる。
いくつも、いくつも、止むことのない雨が降る。
雨は地の乾きを癒やすが、この雨は心の乾きを潤すには到底足りやしない。
今夜も空から星は落ちてこない。俺はこれからも、二度と会えない手の届かぬ星に焦がれ続ける。
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