心配と、目撃

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「よいしょっと、ほらあーん」 「ぁ……」 「んふ、今日は大丈夫そうだね」 「っ……」 出汁の効いた卵焼きを頬張りながら、しまったと思う。 食欲がない日はなかなか口を開かない…というか羞恥で口を開くのに時間がかかることもあるのに。 今日はつい釣られて口を開けてしまった。腹、減ってたし。こいつの相手疲れるし…しょうがない、よな。 あの日以来、こいつは俺の身体を本気で心配してるようで毎日弁当作ってくるし、なんならそれを手ずから食べさせられる。 自分で食べると言っても聞かないし、食費を払うと言っても聞きやしない。 一気に狭まった強引な生徒との距離に、戸惑っている自分がいる、けど。 正直心配されて嬉しくないことはないし、川茂の作る飯は美味いから、甘えている自覚はある。 「お前、いつも飯は?」 「バイト先で賄いもらってて、それが結構残んだよな」 「…お前ん家、やけに看病に慣れてるって感じだったよな。なんで」 「ん?あー俺、両親が医者だったんだよね。だからとりあえずそういうの一式は揃ってる」 「……」 医者「だった」? 担任ではないから川茂の家庭事情は知らないが、お邪魔した家はまあまあに大きかったのに、なぜ川茂はバイトを詰め込んでいるのか。 実は川茂が学校に来ない理由がバイトじゃないとしたら…例えば病欠、とか。なら無理して来させてる方には多少なりとも罪悪感が湧く。 別に顔色が悪いとかそういうのは今までに見受けられなかったが… 人には食えと言って、そのくせ自分は何も口にしないというのが気になる。 どちらかと言えば痩せぎすだし、いくら親が医者であっても、ゼリー飲料が常備されてる家は少ないと思う。 自分の受け持ちでもないくせにちょっと懐いてくれてるからって、過剰に心配しすぎ、なのかもしれない。 でも、何かあってからでは遅い。というのは俺の人生の教訓だから。
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