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大きく口をあけ、思いっきりパンケーキを頬張る。
外はカリカリで中はふわふわ。とてもおいしいパンケーキ。
甘い匂いにつられて買って正解だった。
「どうだ?おいしいか?」
パンケーキ屋の店主が声をかけてくれる。
「ええ、今まで食べたパンケーキのなかで一番おいしいです」
そう答えると、店主は嬉しそうな表情になった。
「私の友達にも食べさせたいのでもう一個ください」
店主に多めの銀貨を渡すと、おまけに一個追加して渡してくれる。
「おまけしてやる。友達と仲良く食べるんだな」
笑顔で手渡されたパンケーキを大事に抱え込んだ。
袋に入ったパンケーキは焼きたての湯気を出している。
パンケーキに残るぬくもりが、私の心を温めてくれた。
「あんた、貴族のぼっちゃんだろ?普段はもっといいもん食ってんじゃないのか?」
店主の言葉を聞いて、私は王宮で食べたパンケーキを思い出す。
あのパンケーキはこの上なく上品だった。
一流のシェフが一流の食材で作ったものだから間違いはない。
世間的に言えば、あのパンケーキの方優れているのだろう。
理屈だけなら、それは私にも理解できることだ。
「それでも私は、このパンケーキが好きです」
受け取ったパンケーキを持って、私は店を去ることにした。
向かう先には、私のことを待っている人がいる。
イチゴのジュレがふんだんに使われた贅沢なパンケーキ。
過去の残骸となり果てたそれは、私にはもう必要がない。
ポケットの中の私の手袋は、熟れすぎた苺よりもずっと赤く染まっている。
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