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彼は猛スピードで車を運転していた。道路は二車線だった。他の車をジグザグに抜かしていった。やけっぱちだった。
彼は左へハンドルを切った。車は道をそれて、脇の原っぱへ突っ込んだ。
彼は思い切りブレーキを踏んだ。ブレーキはきかなかった。車は走り続けた。目の前は石の壁だった。
彼は左へハンドルを切った。車は左へ急旋回した。正面はガードレールだった。ガードレールの向こうは崖だった。
車はガードレールへ追突した。突き破った。崖下へ落下していった。地面へ激突する寸前、彼は目を覚ました。
彼は駅のベンチで居眠りをしていた。目の前に電車が停車していた。
電車の扉から黒ぶちのメガネの男の子が顔を出した。野球帽をかぶっていた。
男の子は眉をしかめ、目を細め、鼻の穴を大きく開き、歯を剥き出しにして、睨むような表情で、ぎっと、改札の方を見た。ぎっと。そこには、わだかまりというものがなかった。
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