第十二話

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第十二話

「ちょっとニキビのある小柄な子が君の代返をしていたけれどあの子か」 「喋った事あるの?」 「ないよ講義が終われば皆はサッサと部屋を出ちまうもんだから直ぐに見失う」 「急に云われてもそうだけど多分その教室ならその子だと思う」  みぎわは半年前にあの食堂を辞めてから、急に時間の余裕が出来た。それで結構友達にも会うようになって最近は良く会っているようだ。 「その多美ちゃんにあなたのことを話したら結構面白がっていた」  愛って対象者が居ない間は、ああでもないこうでもないと理想を追い求める。でも結局は出会いの印象で決まるものなのねと言われた。 「だってみぎわから聴かされた話だと日頃から云ってる理想とはかけ離れているんだもん」  と多美ちゃんにそう言われちゃったとペロッと舌を出して療治に云った。その子にどう説明しているか知らんが、じゃあ俺は理想じゃあないのかと思った。ともかくみぎわは理想だと思っている、と突っ返したが反応はイマイチだった。 「出会いの印象か……」  とそれでも聞こえるように独り言を云ってみたら、そうねと少し笑っていた。ちょっとは効いたが、淹れてくれた紅茶はいつもより渋かった。此の微妙なさじ加減が何を意味するのか気になるが、今は彼女の話題に乗って先のことを考えよう。 「その室屋って子の実家のお寺は保育園なのか」 「ううん違う託児所」 「どう違うんだよ」 「保育園や幼稚園は小学校へ行くまで預かるけれど託児所は子供に制限が無いのだから行政官庁からの許可も制限も受けないから結構自由に預かっている」  でも一時預かりが多いからその分、収入は不安定だ。どっちか謂えば保育園の方が経営は安定してるから、多美ちゃんは保育園にしたい。だけどお父さんが経営は二の次で、様々な親が居るんだからその希望に応えるのが、お釈迦さんの教えに合ってるそうだ。 「じゃあ愛の尊さを説く君の考えに近いんじゃない」 「あたしはお釈迦さんの教えは知らないし教義にも付いていけないのよ」   そんな難しいものより、愛の重さは授かった子の重さと同じだと想って、一緒に扱うべきだと彼女は言っている。 「でもあの大学は宗教法人が経営する学校だろういやでも頭に入るが、そうか殆ど出席してないから別に関係ないか」 「変な言い方、あたしは学費が安くて教義にも拘束力のないから決めた大学ですから」 「要は大卒の肩書きなんか」  ウフと笑って「あんな高い本が埃を被っているんだからあなたはもっとそうでしょう」と逆に言われてしまった。   
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