第百二十二話

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第百二十二話

 紗和子さんも一緒の大学へ行きたかったけど、やっと気を取り直して地元の金融機関に就職した。まさか榊原さんも同じ会社を受けていたとは入社して初めて知った時は複雑な気持ちだったが、好きな人が遠くへ行って、その人の友達が側に居てたら嬉しいのか嬉しいないのか解らん。そのうちに療治さんはなかなか帰って来いひん。来ても榊原さんと()うても、そのまま帰ってしまう。だからどうしてええんか分からんうちに、仕事も順調やったから、知らん間に日が過ぎて、少しは気が紛れてた。そして急に一年前に帰ってきた時には、あたしの所へ真っ直ぐやって来て嬉しくて心が弾んだ。でもしゃくやから澄まして迎えたら、榊原さんの話ばかりされて、此のひとはあれほど大事にしている人なんやと思い込むようになった。その内に榊原さんと一緒になるように勧められたら、もうスッカリ気が動転してしまった。  ーー同意するも何も、スッカリ丸め込まれていたから、殆ど言うとおり頷いていたように思う。だけどまだ心の何処かに、笑ってあたしの前に戻って来てくれるかも知れへん。でも、もうそんな当てもないのに勝手にその時は思って、療治さんがそれを望むんならそれでいいんやと自分に言い聞かしていた。 「とにかく紗和子さんは言いたいことを云ってしまうと、余り根に持たはらへんから療治さんと今付き合ってるあたしにもベラベラと屈託なく喋って、此の時間を何とか過ぎたら榊原さんとは本当に幸せになれると思う」  とみぎわは波多野の心の代弁者のように言ってくれた。こんな人は此処しか居ない。
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